大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)2353号 判決 1952年3月06日

本籍並住居

栃木県足利郡小俣町二一七六番地の一

農業

大川才二郎

明治三五年三月二日生

本籍並住居

同所二二七八番地

小俣町助役

大川政司

明治三二年五月一日生

右に対する業務上横領各被告事件について昭和二六年六月一八日東京高等裁判所の言渡した判決に対し各被告から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人海野普吉、同江橋英五郎の上告趣意第一点について。

横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは他人の物の占有者が委託の任務に背いてその物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいうのであつて、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではない(判例集三巻三号二七六頁以下参照)。しかるところ、所論原審認定の事実によれば、被告人等は共謀して栃木県庁から判示のとおり指定救助者にかぎり給与すべき旨の指示を受けて配布された判示救助物資を、業務上保管中敢えて、右県の指示に違背し、何等の権限もなく指定救助者以外のものに給与したことに帰するのであるから被告人等に不法領得の意思なしということはできない。それ故、原判決には所論のような違法はない。なおその他の所論は結局事実誤認を前提として刑罰法令の違背を主張するに帰着し、刑訴四〇五条所定の上告適法の理由に該当しない。

同第二点について。

原審が被告人大川政司も小俣町助役として判示救助物資を業務上保管していたものと認定していることは、原判文を熟読すれば容易に了解することができる。されば原判決が同被告人を業務上横領罪の共同正犯に問擬したのは当然である。論旨は原判旨に副わない非難を試みるものであり採用の限りでない。

なお記録を精査しても本件では刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて刑訴施行法三条の二刑訴四〇八条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔)

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